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免疫腫瘍学教室〈寄附講座〉Immuno-Oncology

スタッフ紹介

教育重点及び概要

 この講座は2018年4月、がん研究を幅広く支援されている方の寄付により開講されました。その目的は、がんの臨床および基礎の医学研究を通して、世界のがんで病める人々の幸福を追求することにあります。いま世界の先進国の中において、先駆けて高齢社会となった日本では、加齢病ともいえるがんは二人に一人が罹患し、三人に一人はがんによって命を落としています。さらに2018年、世界では1,800万人ががんに罹り、950万人ががん死すると予想されていました。いずれも約半数が、人口の多いアジアに集中しています。
 がんの研究は、がんの発生から診断と治療へと幅広い分野にわたります。しかし長年、われわれは内科医の立場からがん治療に従事してきたことから、2004年まで抗がん剤耐性の臨床および基礎研究を平行して行い(長崎大学)、2005年から未来を展望して旧知である故中山睿一教授(岡山大学、腫瘍免疫学)とがん免疫療法の研究を始動し、いまも脈々と継続しています(川崎医科大学)。いま回想すれば臨床医として、がん免疫療法が隆盛となった今日を予測しての方向転換でした。
 この間、我々は二人三脚でがん抗原を中心にその発現とがん患者の免疫反応の解析、がんワクチンの臨床試験、さらに世界初の制御性T細胞を標的にした抗体免疫療法、術前免疫療法など、いずれも世界でも先駆的な臨床と基礎研究を行ってきました。これらの研究は臨床と基礎が完全に融合し、多施設共同での理想的な体制で実施されました。まさに患者を中心においた、医学研究の手本でもあります。

研究分野及び主要研究テーマ

 2018年10月、がん免疫療法は本庶佑先生のノーベル賞受賞を契機に、世界中が注目しその話題は過熱しています。しかし、がん免疫療法の歴史は古く、1891年にWilliam Coleyががんワクチン(Coley’s toxins)を開発したことに端を発し、脈々とがん免疫の臨床と基礎の研究が続けられ、次々に大発見がありました。2010年、遂に免疫チェックポイント阻害薬のイピリムマブ(抗CTLA-4抗体)が、これまで最も予後不良であった悪性黒色腫患者の長期生存を可能にしました。その後、二ボルマブとペンブロリズマム(抗PD-1抗体)が多くのがん種で患者の予後を改善する結果が報告され、がん免疫療法はがん治療の柱のひとつに位置するようになりました。われわれは2005年から今日を予測して、がん免疫の研究を始動しています。

 現在、われわれは臨床研究に軸足をおいて、多施設共同研究として

  1.  がん免疫療法の効果や予後を簡便に予測しモニタリングするバイオマーカーの探索研究に取り組み、いま成果をあげつつあります。これらの成果は、日本発かつ世界初となり、新しい診断薬の開発によって画期的なバイオマーカーの概念を提唱しようと考えています。
  2.  われわれが同定した、肺がんで最も頻度の高い肺腺がんに特異的なXAGE1抗原に対する細胞傷害性T細胞を、iPS技術を用いて増やし肺がん患者に投与する研究を行っています。2年後の臨床試験を目処に研究が進んでいます。
  3.  われわれが同定した、肺がんで最も頻度の高い肺腺がんに特異的なXAGE1抗原を用いて、長鎖ペプチドワクチンを作成し抗腫瘍免疫の活性化の臨床試験を完了しました。その結果、安全性と有効性が確認され、今後の臨床応用に向けて開発を継続しています。

 私の持論は、情報通信技術が発達した今日では、研究は地方にあっても大都会にあっても、その研究の場によって研究レベルや発信力に差はなく、その差は発想力と研究者間の和であると信じています。これからも多くの共同研究者の知を結集し、日本から世界へ、全ては病める人のための医学研究を推進していきます。