教室紹介

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生理学1教室Physiology 1

スタッフ紹介

教育重点および概要

 6年間にわたる医学教育の基礎として、人体の構造を学ぶ解剖学と並行しながら生体の恒常性維持の制御機構について分子レベルから細胞、組織、臓器そして個体レベルを統合的に理解することを目標とする。臨床現場で遭遇する症例は教科書的なものばかりではなく、複合的で多彩な様相を呈している事が多い。臨床医として、常に考える姿勢を保ち、多くの選択肢の中から的確な診断・治療を行うことが出来るようになるためにも生理学は重要な学問であり、積極的に取り組んで欲しい。講義内容は必ずしも生理学の担当する範囲に限らず、必要に応じて臨床医学的な観点から生化学や薬理学的なトピックについても紹介する。

 生理学1では、第1学年の「人体の構造と機能」において、心臓・血管などの循環器、呼吸器、消化器、生殖器、泌尿器の領域担当に加え、第2学年の「生体内情報伝達」「臨床発生学」を生理学2教室・自然科学教室・病態代謝学教室と共に担当して、疾患を入り口として発生学・分子生物学的な視点からの統合的理解を目標としている。機能系統合実習ではウサギを使った血圧の制御システムに関する実習、ラットの消化管運動に関する実習、ヒト心電図の実習を行い生理学的知識と臨床医学の橋渡しとしての役割を果たす。これらは教科書や講義だけでは得られない情報を多く含んでおり、漫然とやり過ごさずに自ら疑問を持ち考える姿勢で臨み、有意義な経験としてくれることを希望する。近年では分子生物学的研究が急速に進み、その成果が時間を置かずに臨床応用されている。古典的生理学も新たな視点から解釈されており、基礎となる概念を持たずに臨床的各論を学ぶのは学習効率が悪いのは勿論、興味を維持する上でも障害となるので確実に身に付けて欲しい。第3、6学年でも主に循環器領域の講義を担当するが、CBT試験、国家試験問題への準拠を意識した講義とし、高学年ではより実際的な知識を学ぶと共に前述した基礎的概念を復習する場としたい。

研究分野及び主要研究テーマ

 心臓・血管などの循環生理を主に扱うが、個体・臓器レベルでの機能を分子・細胞レベルまで統合的に解析する研究を目指す。

1)心臓進化と拡張機能障害による心不全

 加齢や高血圧に伴って、心臓超音波検査などで収縮機能に異常が認められないにも拘らず心不全症状を呈する拡張機能障害が注目されている。なぜ軽微な拡張機能の低下で心不全が起こるのかという疑問に、我々は心室圧-容積関係を基軸として心筋細胞のバネ分子コネクチンやカルシウム動態など細胞レベルでの知見と統合して心不全の病態解明に取り組む。広く脊椎動物心臓のバネ分子コネクチンに着目して解析を進め、コネクチン分子進化と心室拡張性、そして冠動脈が獲得された時期と理由について検討して行く。

2)低酸素環境維持システムとしての胎児循環

 胎児循環は酸素親和度の高い胎児型ヘモグロビンにより効率よく酸素を供給するとされている。我々は酸素供給量と酸素環境は細胞にとって個別の要素であると考え、心筋細胞が生後間もなく分裂能を喪失するのは酸素環境の変化によるとの仮説を立てた。低酸素状態のまま培養したマウス胎児心筋細胞が、高酸素濃度に暴露された時の遺伝子発現変化についてPCRアレイによって検討し、酸素濃度変化によって細胞分裂を停止させる分子としてFam64aを同定した。今後は酸素濃度を感知している分子機構の解明と下流の細胞分裂、細胞分化シグナルへの作用について明らかにしていく。心筋分裂能と酸素環境の関係についての研究を進めるために、慶應義塾大学理工学部塚田准教授と共同研究を行っている。ポルフィリン燐光を用いた生体内微小環境の酸素分圧計測にて胎児期の心臓がおかれている酸素環境特性を評価する。