主任教授 岡 三喜男
【呼吸器内科で実施している「肺がん免疫療法」の臨床研究】現在、下記の肺がん免疫療法の臨床試験と治験が進行中です。
| (1) | 肺腺がん患者に対するXAGE1長鎖ペプチドを用いたワクチン治療の安全性と免疫原性に関する試験(第 I 相、臨床試験)(UMIN000026493) |
【受診方法】
| 1) | 完全予約制:086-462-1111(代表)→ 呼吸器センター外来 内線23630 呼吸器内科 「肺腺がんワクチン受診希望」と伝えて下さい。 |
| 2) | 主治医の紹介状を持参して、呼吸器内科外来を受診して下さい。 (注意)電話での、事前問い合わせは、受付けません。 |
| 3) | 腫瘍組織のXAGE1抗原発現、または血中XAGE1抗体は、当科でのみ測定可能 |
【対象】 XAGE1抗原または血中XAGE1抗体陽性の進行期肺腺がん患者
進行期肺腺癌患者で、登録時に以下の全ての基準を満たす患者を対象とする。
【登録期間】 2017年6月〜2018年3月31日
| 1) | 標準化学療法を終了、もしくは化学療法を受ける意志がない患者。 | ||
| 2) | Performance status 0〜2(日常生活が自立している) | ||
| 3) | 年齢:20歳以上 | ||
| 4) | 前治療(手術、化学療法、放射線療法、温熱療法、他の免疫療法など)から4週間以上経過していること。 | ||
| 5) | 3ヶ月以上の生命予後が見込めること。 | ||
| 6) | 主要臓器(骨髄、心、肺、肝、腎など)に高度な障害がなく、治療開始時の臨床検査が以下の基準を満たす。
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| 7) | 腫瘍組織にXAGE1抗原が発現、あるいは血中にXAGE1抗体が存在していること。 | ||
| 8) | 治療内容を理解し、本人の同意を文書で得られること。 | ||
| 9) | ペニシリン過敏症の既往のないこと。 |
【登録期間】 2017年6月〜2018年3月31日
| (2) | 「固形がん患者に対するMogamulizumab(抗CCR4抗体)・Nivolumab(抗PD-1抗体)術前併用投与の安全性を観察するための第I相治験」(NCT02946671) |
受診方法
| 4) | 完全予約制:086-462-1111(代表)→ 呼吸器センター外来 内線23630 呼吸器内科 抗CCR4抗体術前併用治験 受診希望と伝えて下さい。 |
| 5) | 主治医の紹介状を持参して、呼吸器内科外来を受診して下さい。 (注意)電話での事前問い合わせは、受付けません。 |
| 6) | 対象:手術可能な臨床病期2A、2B、3A(N2)の非小細胞肺癌 |
| 7) | 登録期間:2016年3月〜2018年6月 |
大阪大学医学部附属病院(消化器外科)、名古屋市立大学病院
東京大学病院(呼吸器外科、その他)、国立がん研究センター東病院
Press Release by AACR, Am Asso for Cancer Res (Oct 1, 2015)
http://www.aacr.org/Newsroom/Pages/News-Release-Detail.aspx?ItemID=766#.Vg0u19RKOK0
(2016.6.8)
【肺がん免疫療法の現状と展望】 【現状】
現在、肺がん(小細胞肺がんを除く)に保険承認されている免疫療法(狭義)は、国内では二次治療以降に対し免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体(nivolumab)のみである。この免疫療法の最大の利点は、他のがん薬物治療に比べて奏功期間が長く、予後が延長することである(下図)。しかし、その奏功率は約20%、注意すべきは約40〜50%が増悪するので慎重な対応が求められる。 2016年2月には、もうひとつの抗PD-1抗体薬pembrolizumabが承認申請されている(米国は承認済)。
がんワクチンや細胞療法などの免疫療法は、有効性を示す明確な科学的証拠がなく、現状では臨床試験、臨床治験や民間療法として行われている。狭義の免疫療法とは、腫瘍局所の免疫調節(immune modulation)を介してT細胞性免疫を誘導し、がん細胞を特異的に殺傷する治療法を意味している。したがって、血管新生阻害薬などは抗体薬ではあるが、免疫療法には含まれない。世界的には、免疫チェックポイント阻害薬を主軸に、その他の抗体薬も単剤および併用療法での承認をめざして、臨床治験が競争的かつ活発に展開されている。
腫瘍免疫学は腫瘍炎症の発見以来、130年以上に及ぶ歴史的な概念論と大発見によって着実に進歩してきた。ここ数年、がん免疫療法は科学的な臨床成果を示すようになり(免疫腫瘍学)、世界的に注目を浴びるようになった。しかし多くの臨床腫瘍医は、歴史的な背景の詳細を顧みること無く、目先の抗体薬の効果と有害事象にのみ注視している。今後、がん免疫療法を有効利用または発展させるには、免疫学および腫瘍免疫学の壮大かつ基本的な事項を理解すべきである。
【歴史的背景と展望】
近年、がん免疫療法は外科療法、化学療法、放射線療法に次ぐ第四の治療法として、急速に確固たる地位を築きつつある(免疫腫瘍学)。今後10年間で免疫療法は、大半のがん種で治療の中心になると予想されている。その背景には、腫瘍免疫学の壮大な命題であった免疫監視機構、がん特異的抗原と免疫応答、免疫耐性(免疫寛容、免疫抑制)機構が細胞および分子レベルで解明され(腫瘍免疫学)、非特異的免疫療法から分子免疫抗体療法への急速な進歩がある(下図)。
現実、米国において最も予後不良な悪性黒色腫では、免疫チェックポイント阻害薬の抗CTLA-4抗体(ipilimumab)によって、22%の患者が10年以上生存する画期的な成果が報告されている(Cell 162:1202, 2015)。さらに2015年12月6日、Jimmy Carter米国元大統領は自らの悪性黒色腫が肝臓と脳に転移し、免疫チェックポイント阻害薬pembrolizumabの投与によって、全て消失したと宣言し注目を浴びた。
このように最近の免疫療法は、それに感受性の高い悪性黒色腫の臨床試験の結果に先導され、多くのがん種に導入され確実に進歩している。
(細胞傷害性免疫の誘導と免疫療法)
腫瘍免疫が効果を発揮するには、効率的な初期免疫相(priming phase)と効果相(effector phase)が必要であり、前者にがん抗原と抗原提示細胞(主に樹状細胞dendritic cell:DC)、後者にリンパ球とがん細胞の接触がみられる。1991年、Thierry Boon らが、悪性黒色腫のがん抗原MAGE-A1とその特異的CTLを同定して以来、両相での免疫活性化へ向けた免疫療法が長年に渡って試みられてきた(下図)。しかし、いずれの治療法も科学的な臨床試験によって有意な成果がみられず、現在まで承認されたものはない。最近は、併用療法の一端として開発が進められており、がんワクチンにも大きな期待が寄せられている。われわれもペプチドワクチンとの併用試験を計画している(プロジェクトを参照)。
(発想の大転換)
がん免疫療法を一変させたのは、これまでの抗腫瘍活性のアクセル(促進:黒矢印)を踏むから、ブレーキ(抑制:赤矢印)を解除する治療法の発見と開発である。具体的には、がんワクチンやサイトカイン療法によるリンパ球活性化から(上図)、抗CTLA-4抗体や抗PD-1/PD-L1抗体による抑制解除によってがんは縮小し(下図)、有意な生存期間の延長が立証された。つまり発想の大転換であり、その背景には免疫をアクセルまたはブレーキに切り替える免疫チェックポイント分子の発見がある。理論的に抗CTLA-4抗体はpriming phase、抗PD-1/PD-L1抗体はeffector phaseの抑制解除に相当する。当然、これら免疫チェックポイント阻害薬の効果の前提には、がんの恒常的な免疫監視機構の存在がある。現在、肺がんにおいては、われわれのXAGE1関連研究がその理論の証左の中心にある。
しかし、現状での免疫チェックポイント阻害薬の単剤療法には限界があり、その他の治療法との併用療法が米国を中心に活発に展開されており、一部は間もなく報告される(下図)。既に、悪性黒色腫では抗CTLA-4抗体(ipilimumab)と抗PD-1/PD-L1抗体(nivolumab)の併用療法が高い奏功率を示し、米国で承認されている。われわれも、世界初の術前免疫療法の臨床治験を開始している(プロジェクトを参照)。
それと同時に、免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するバイオマーカーの探索研究も展開されている。現在、肺がん細胞のPD-L1発現量やneoantigenの種類と多寡が奏功率や予後に関連しているとされているが、その奏功率の上限は約40〜60%に止まっている。一方、PD-L1低発現例やneoantigenが少ない症例でも奏功することがあり、バイオマーカーとして検査の標準化や費用の面から多くの課題が残されている。
理想的ながん免疫療法に必須の事項は、がん特異抗原に対する免疫反応の増強、免疫チェックポイント阻害、アジュバントである。各々に解決すべき課題は山積しているが、最新情報から一歩ずつ着実に進化していることを体感している。
それにしても、日本における肺がん免疫の基礎および臨床研究は極めて遅滞している。日本の臨床腫瘍医は過去の免疫療法に対する歴史認識を払拭し、130年以上積み重ねてきた腫瘍免疫学の歴史と成果を基に、未来を展望し基礎研究者とともに、日本から世界へ画期的な肺がん免疫療法を発信することを願っている。
まだ我々にできる事、すべき事は目の前に無数にある。
文責:主任教授 岡 三喜男
(2016.3.22)
(2016.3.22)
【解説:ワクチンの語源】 (ワクチンの語源)
Vaccine(ワクチン)の語源はvacca(牝牛:ラテン語)です。その由来は・・・・
近代免疫学の父、イギリスの医学者Edward Jennerは、牛痘に感染した乳搾りの女は天然痘(人痘)に罹らないという農民の伝承に着目した。18年間の研究を経て1796年、この伝承を実証するためJennerは、サラ・ネルムスという乳搾りの女の手に生じた牛痘の膿液を8歳の少年James Phippsに接種した。その約1か月半後、Phippsに人痘を接種したが罹患しなかった。牛痘接種によって人痘に対する免疫がつき、牛痘接種の人痘予防効果を確認した。1798年、Jennerは43例の牛痘接種例をまとめて「牛痘の原因および作用に関する研究」を発表し牛痘接種法は確立し、急速にヨーロッパ中に広まった。しかし、この成果は医学界からは容易に認められなかった。
日本へ牛痘接種法が伝来したのは、1849年、出島商館医Otto Gottlieb Johann Mohnike(オットー・モーニッケ:ドイツ人医師)が長崎出島にバタビヤから牛痘苗を持参したことに始まる。Mohnikeは肥前藩御番方医師の楢林宗建の3児に接種して、三男建三郞に美痘がみられ、この痘苗は長崎から大坂・京都・江戸へ送られ急速に全国へ広まった。同時にMohnikeは、現在われわれが使っているラエンネック型聴診器の原型を長崎出島にもたらした。現在、その木製聴診器は、私の母校である長崎大学医学部の図書館に保存されている。
Edward Jennerが開発した牛痘接種法は、後に天然痘ワクチンへ改良進化し、1980年のWHO「天然痘撲滅宣言」へと繋がり、人類を救うこととなった。
参考文献
| 1) | 「出島の医学」、相川忠臣、長崎文献社、2012(名著かつ大著です) |
| 2) | 「出島の科学」、長崎大学「出島の科学」刊行会編著、九州大学出版会、2002 |
| 3) | 「天然痘根絶史」、深瀬泰旦著、思文閣出版、2002 |
| 4) | ポンペ日本滞在見聞記、ポンペ(著)、沼田二郎・荒瀬進(訳)、雄松堂、1968 |












