日ごろの診療で行っている「IVR(画像下治療)」が、この研究を始めるきっかけとなりました。
IVRとは、CTやX線などの画像を見ながら、カテーテルと呼ばれる細い管を血管の中に入れ、出血を止めたり、血管の異常を治療したりする方法です。体を大きく切らずに済むため、患者さんへの負担が比較的少ないという特長があります。実際に治療を行う中で、「血管の中では何が起きているのか」「もっと細い血管まで詳しく見ることができれば、治療に役立つのではないか」と考えるようになりました。そこで、大型放射光施設SPring-8の高精度な単色X線を用いて、これまで観察が難しかった微小血管の構造を詳細に可視化する研究に取り組んでいます。
SPring-8(スプリングエイト)は、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界有数の大型放射光施設です。
放射光とは、光とほぼ同じ速さまで加速した電子の進む向きを磁石で曲げたときに発生する、非常に明るく細い光のことです。
SPring-8ではこの放射光を利用して質の高いX線を作り出すことができ、医療や生命科学、材料開発など幅広い分野の研究に活用されています。我々の研究では、SPring-8で作られる「単色X線」を使用しています。単色X線とは、さまざまな波長が混ざった通常のX線から、特定の波長だけを取り出してそろえたX線です。波長を目的に合わせて細かく調整できるため、血管に注入した造影剤をより鮮明に写し出すことができます。これにより、これまで観察が難しかった非常に細い血管まで詳しく観察することが可能になります。
出血や血管の異常を治療するIVRでは、血管を意図的につめる「塞栓物質」を使用します。
塞栓物質にはスポンジ状のものや液体状のものなどさまざまな種類があり、病気や治療の目的に応じて使い分けています。
しかし、通常のIVRで用いるX線透視装置では、約500µm(0.5mm)程度の血管までしか詳しく観察できません。一方、SPring-8の高精度なX線を用いた「微小血管造影」では、髪の毛の太さの半分以下にあたる約30µm(0.03mm)という非常に細い血管まで観察することができます。この技術を用いて、塞栓物質が血管の中をどのように進み、どの径の血管をつめるのか、さらに時間とともに塞栓された血管がどのように変化するのかを調べています。これらを明らかにすることで、より安全で効果的な塞栓物質の選択や使い方につなげることを目指しています。
チエナム(イミペネム・シラスタチン)は本来抗生剤ですが、肩や膝などの長引く痛みに対する「運動器カテーテル治療」で、痛みの原因となる異常な血管をつめる塞栓物質としても使用されています。私たちはSPring-8の微小血管造影を用いて、チエナムで血管をつめた後の変化を詳しく観察しました。その結果、正常な血管ではつめた後に短時間で再び血流が戻る一方、炎症を起こした血管では、つまった状態が長く続くことが分かりました。この違いから、チエナムは正常な血管と炎症を起こした血管とで異なる作用を示す可能性が考えられます。
現在は、チエナム以外のさまざまな塞栓物質についても、血管内でどのような挙動をするのかを詳しく調べています。
これらの研究を通じて、それぞれの塞栓物質の特徴を明らかにし、より安全で効果的なIVR治療につなげることを目指しています。
