私たちの細胞は、両親媒性の膜脂質でできた膜(細胞膜)に包まれています。その膜脂質の一つがスフィンゴ脂質です。スフィンゴ脂質は、19世紀後半にドイツの化学者 J.L.W. Thudichum によって発見されました。当時、この脂質はそれまで知られていた脂質とは構造や性質が大きく異なり、その正体がよく分かっていませんでした。そこで、「謎」を意味するギリシャ神話の怪物「スフィンクス」にちなんで、まず「スフィンゴシン」と命名され、その後、この骨格をもつ脂質群は「スフィンゴ脂質」と呼ばれるようになりました。
その後の研究により、スフィンゴ脂質はすべての真核生物と一部の原核生物に存在し、細胞膜の構成成分として細胞の形を保つだけでなく、細胞同士が情報をやり取りしたり、さまざまな生命活動を調節したりする重要な役割を担っていることが明らかになりました。
このように重要な働きを担う一方で、その機能にはまだ解明されていない点も多く残されており、現在も世界中で研究が進められています。
「スフィンゴ脂質」という言葉は知らなくても、「セラミド」という言葉は耳にしたことがある方が多いのではないでしょうか。セラミド配合の化粧品が数多く販売されていることから、私たちに比較的なじみのある成分です。
セラミドは、スフィンゴ脂質の脂質部分の基本となる構造(骨格)です。このセラミドに糖鎖やリン酸基などさまざまな分子が結合することで、多様なスフィンゴ脂質がつくられます。また、セラミドは単独でも存在し、特に皮膚の角質層に多く含まれています。皮膚のセラミドは、水分の蒸発を防ぎ、外部からの細菌やアレルゲンの侵入を防ぐ「皮膚バリア機能」を維持するために欠かせません。そのため、セラミドの合成が低下すると、皮膚の乾燥やバリア機能の低下を招き、皮膚疾患の原因となることがあります。
一方、スフィンゴ脂質は皮膚だけでなく、脳や肝臓をはじめとする全身のさまざまな臓器や組織に存在し、それぞれの細胞で重要な役割を果たしています。