2008年 呼吸器内科同門会誌・年報「表紙絵解説」(3月1日発刊)

「崎陽の丘」

岡 三喜男


 わが家のベランダから臨む長崎湾です。長崎での休日,高校一年以来数十年ぶりに絵筆をとった。皐月の陽光を浴び刻々と顔色を変えていく港,崎陽そのものである。長崎では港のみえる風光明媚な丘を「崎陽の丘」とよび,「崎陽(きよう)」とは喩えがたいほど美しいものを云う。
 朝夕に汽笛がなるこの港は,江戸時代から唯一異国へ開かれた美しい港として愛されてきた。船が長崎湾にはいると,異人達は甲板に立ち「絵のように美しい長崎湾の風景を眺めたが,乗組員一同は眼前に展開する景観に,こんなにも美しい自然があるものかと見とれてうっとりしたほどであった。神ならぬ身,いかなる運命に巡り合うかもしれないことであるが,本当にここで二,三年生活することになっても悔いるところはないという気になった」(「ポンペ日本滞在見聞記」の一節)と,感慨にふけっていた。
 円山応挙作を代表として「長崎港の絵」は,世界中に約二百点が現存するといわれている。私の好きな応挙と崎陽には,まことに申し訳ない拙作である。