2014年4月30日 第1版第1刷発行(金原出版)

「読む肺音、視る肺音、病態がわかる肺聴診学」

川崎医科大学 呼吸器内科学
主任教授  岡 三喜男


 「読む肺音、視る肺音―病態がわかる肺聴診学」(Webで聴く肺音)は、これから聴診器を手にする人達のために執筆しました。また、この本は医学教育に携わる人の聴診器と肺音への理解を深めることを目的としています。若い人達が実習の現場でもち歩き医療面接を基に、肺音の発生機序から聴診音を理解し、聴診音から病態を推察する思考過程を手助けするように配慮しています。肺音に耳を澄ますと呼吸音の発生機序から、呼吸を営む肺の驚異的な構造がみえてきます。
 身体診察には五感を鋭く働かせることが重要です。聴診器は科学が進歩した今も医療人が最初に手にする診療器具ですが、その構造と特性、肺音の発生機序と伝播について学ぶ機会がありませんでした。身近な肺聴診に関して「読む、視る、聴く」教育資材は乏しく、1985年の「肺の聴診に関する国際シンポジウム」での肺音分類も未だ十分に普及していないのが現状です。その理由は、これまで肺聴診の教育と習得は、呼吸生理学、音響学、流体音工学の科学的な成果を考慮しない経験的なものになっていたからです。近年の画像診断の進歩と相俟って、さらに肺聴診が軽視されていることは否めません。多くの教育者や臨床医は科学的な根拠がない経験的な知識だけで、曖昧な肺聴診での教育と診療をおこなっていたように感じられます。呼吸器疾患には、画像所見だけで診断できないものが多数あります。実地医療では、聴診によってごく初期の肺炎を発見し、聴診所見の変化で処方を変更することもしばしば経験します。本書は、身近で手軽な診療器具である聴診器を生涯にわたって、有効に活用するためのものです。
 1816年、仏国の臨床病理学者ラエネックは子供たちが遊ぶ姿から木製聴胸器(聴診器)を考案、1819年に聴診所見と病理所見を対比して「間接聴診法」を著し、肺聴診学を確立しました。私の母校、1857年創立の長崎大学医学部にある長崎大学附属図書館医学分館には、日本最古のラエネック型木製聴胸器が保存されています。この聴胸器は1848年、日本へ種痘をもたらした出島商館医オットー・モーニッケが欧州から長崎の出島へ持参したものです。この地から日本の西洋医学教育、種痘、そして肺聴診学が始まりました。ここにラエネックの木製聴胸器から約200年を経て、改めて彼の偉業を称え、未来を担う若い医療人のため現代版「肺聴診学」を著しました。
 より完成した肺聴診学の実学書をめざして、皆様からのご意見を求めています。川崎医科大学呼吸器内科ホームページへ忌憚のないご意見をお寄せください。この現代版「肺聴診学」が多くの方に使われ、聴診技の向上と何よりも病める人達のため大いに役立つことを願っています。
 最後に、多忙な診療の中で聴診音の収録に協力いただいた教室員の皆様、肺音解析ソフトEasyLSAの使用を快諾して頂いた国立病院機構福岡病院の中野博先生に厚く御礼申し上げます。

1.

本書は、肺音を視覚化し科学的に解説した日本初の「肺聴診学の教本」です。

2.

肺音をWebで聴き、肺音を各種デバイスにダウンロードできる画期的な医学教育資材です。

3.

この本によって科学的な肺聴診が、全国に普及することを期待します。
(追記:本書の著作権料は、すべて「あしなが育英会」へ寄付します)