病院広報 第144号(平成23年4月)
<提言>
「大学と社会の不適合」
川崎医科大学付属病院 院長補佐
岡 三喜男
この度の東日本大震災で被災された方々、さらに福島原子力発電所の倒壊により避難されている皆様に心よりお見舞い申し上げます。日本には戦争と大震災から幾度となく復興した史実があります。今度も日本国民は一丸となって、世界の震災史上で最大の被災から必ず復興します。
私の母校は1945年8月9日、原爆投下の直下に在り患者と医療関係者を含む多数の犠牲者とともに一瞬にして廃墟と化し、被爆後は廃校も検討された。しかし世界唯一の被爆国の大学として、1986年4月のチェルノブイリ原発事故ではいち早く現地へ赴き被爆医療に従事、ロシアから医療研修生を受け入れ、25年間に渡って医学生とともにベルラーシで医療と調査活動を継続している。この度の福島原発事故でも同窓生が一番に駆けつけ、住民の方たちの被爆に対する不安と相談に応じている。この震災から復興を遂げた暁には、日本は被災経験を生かして新しい国際貢献ができることを祈念している。
さて今年2月、大学卒業予定者の就職内定率は77%と史上最低になった。この度の震災被害の影響で実質就職率は、さらに低下していると推測される。人口に膾炙されている新卒一括採用や大手志向も一因だが、それ以上に大学と社会のミスマッチ(不適合)がある。当地方でも安定志向を反映して、銀行が人気上位を占めている。高い大学進学率を背景に大学や学科の新設が相次ぎ、最近は少子化にともない学生獲得合戦が激化している。オープンキャンパスと称した見学会では手土産をもたせ、その歓待ぶりは年ごとに華美になっている。大学入試は全入時代と言われ競争率は低下、新入生に中学高校水準の講義をしている大学もあり、客員教員と安易な進級制度で卒業させている。大学3年生になると就職活動を始め、卒業間際まで専門教育は疎か一般教養すら学べない状況にある。大学院生や卒業生の海外留学希望は激減し、安定志向は将来の日本の国際的地位を低下させる要因と考えられ、事実、海外の識者も危惧している。まさに飽食世代の自己満足である。
反面、企業セミナーでは人件費削減と内部留保が基本にあり、効率的な研究投資と海外展開が議論される。少子化による人口減少で国内市場は縮小し、これを補う海外進出には国際的人材が求められ、どの場面でも企業の浮沈は人が中心である。最近、前述の背景から社内公用語を英語にする企業が増えている。当然、新入社員に求めるのはTOEICの高得点だが、現実には実践外国語を重視する傾向にある。その理由として、企業は業績低迷で新入社員を教育する資金も時間も節減したいと考えている。この話は、どうも他人事に聞こえる人も多いのではないだろうか?貿易立国である日本の沈滞は、皆さんの周りの中小企業、銀行、医療、年金の破綻に連鎖する。先日、知人の退任祝賀会に出席したが、会場のホテルはいつの間にか近隣国の資本傘下にあった。私と同じ経験をされた方は多く、日本沈滞の兆候は以外にも身近にある。
視点を変えると、これほど明確な大学の現状と社会の不適合はない。少子化に迎合する内向き大学と地球規模に展開する外向き企業、この乖離を縮める勇気こそが日本を元気にする唯一の出発点である。医療系大学も決して例外ではなく、近い将来、内向き指向は少子化と日本沈滞によって破綻する。むしろ医療を産業として捉え、外向きに発展させる大胆な発想が自らと日本を元気にする。海外に暮らすと望郷の中で日本のすばらしさを再認識し、愛国心が深くなる。飽食世代は愛国の徒となり、日本を元気にする源になることを期待している。






