2006 長崎大学第二内科 記念講演

『進化するCT画像から肺音への回帰』

川崎医科大学 呼吸器内科
教授  岡 三喜男


 母校,長崎大学医学部図書館には日本最古の木製聴診器が保存されている。このラエンネック型聴診器は1849年,日本へ牛痘(種痘)をもたらした出島商館医オットー・モーニッケがヨーロッパから長崎へ持参したものである。以来,呼吸器疾患の診断に間接式聴診が普及し始めた。一方,レントゲンの発見とコンピューター・サイエンスの進歩とともにCTが開発され,呼吸器疾患の画像診断は病理組織へ迫るほど急速に進化している。しかし実地医療では,科学が進歩した今も聴診器は身近な診断機器である。
 日々の診療や医学教育から気づくことは,肺音聴取には聴診器特性が強く影響しているため客観性と説得性に乏しいことである。また聴診には熟練を要し,単純な肺音分類では説明できない肺音が存在する。その結果,コメデイカルを含めて最も不得手な医療技術を問うと,「簡便なはずの肺音聴取」である。これら肺音聴取の問題点を解決すべく,コンピューター・サイエンスを駆使した「電子聴診器」の開発に着手した。
 我々の電子聴診器は,
1. ピエゾ素子を採用しているため優れた肺音特性を示す。
2. 肺音はリアルタイムに聴診でき,コンピューター画面に波形として描出される(客観性を具備)。
3. 呼吸相の判別とスペクトル解析で異常肺音を検出できる。
4. 肺音ソナグラム表示で異常肺音が瞬時に可視され,同時に記録される。
5. 肺音データのクラスター解析によって,肺音のコンピューターによる自動診断ができる。
6. 超小型発信器を内蔵し,遠隔地から肺音を送信できる。
この電子聴診器は将来,医学教育,実地医療,在宅医療に多大な貢献をすると確信している。いま,真に人類へ貢献する医療機器の開発に取り組んでいる。
 講演ではCT画像と対比しながら,我々の電子聴診器による肺音解析の成果を示す。