「これから肺聴診学を学ぶ人、教える人のために」

 このたび、本書は読者からの幅広い意見を参考に改訂しました。私の肺聴診法、頸部聴診法、肺聴診による重症度の判定、確認問題など、より実践的かつ効率的に肺聴診学を習得するためです。特に私の肺聴診の講演を聴かれた読者から、講演後に読むとわかりやすいとの声をいただき、改訂版ではWeb動画による講義と読本を一体化させました。
 本書では、最初に収録された肺音をダウンロードし、正常の呼吸音と異常な肺音を聴き比べ、異常とは何かを体感します。次に読みたい項目の講義を視聴し、内容の概略をつかみます。そして順次にすべてを精読することで、各肺音の発生機序を臨床解剖学、臨床生理学、および音響学から学びます。最後に、医療面接と聴診所見から異常な肺音の病態を考え、的確な臨床診断へ迫っていきます。これら一連の過程こそが「肺聴診学」です。
 本書は6年前の発刊以来、多くの医療系の学生、医療人、教育人に愛読していただきました。Webから肺音をダウンロードして聴いて視るという斬新な企画によって、いつしか肺聴診のバイブルとなりました。本書が医学教育と医療、さらに病める人に少しでもお役に立てたことを嬉しく思っています。
 また本書によって、学びたくても学べない子ども達へ教育支援をしてきました。昔から、日本人は治療することを「手当する」といい、それは医療人が「患者に手を当てる」ことに他なりません。現代において身近で簡便な「患者に聴診器を当てる」ことは、まさに手当そのものです。将来、医療に関わる人達には、初めて聴診器に触れるときから、肺聴診学を学んで欲しいと願っています。
 一方、いまだ医療現場と学会発表では、呼吸音と肺音を混同し、「肺雑」や「狭窄音」などの私的な造語が使用されているのも事実です。チーム医療が重視されるなか、実地医療では共通の医学用語を使い、チーム内で患者情報を共有することが求められます。また近年、急速に人工知能(AI)が医療に導入されつつありますが、呼吸器疾患においてはアナログな医療面接とデジタル化した肺音から、人工知能で的確に臨床診断するのはまだ難しい現状にあります。そこで医学教育の中に「肺聴診学」を開講し、正しい肺聴診学を教育すべきです。ラエネックが木製聴胸器を考案し、1819年に肺聴診学を確立してから200年を経て、いま情報通信技術を駆使した「現代版 肺聴診学」が登場し、さらに進化することを期待しています。
 ここで肺音解析ソフト(最新版SmartLSA)を開発された国立病院機構福岡病院の中野 博先生に、あらためて敬意と感謝を申し上げます。最後に、肺音収録にご協力いただいたみなさま、出版にご尽力いただいた金原出版の方々に厚く御礼申し上げます。

2020年4月
岡 三喜男