教授挨拶

解剖学教室は、本学開学後間もなく昭和46年に発足し、平成5年より2つの教室が統合されて、現在の解剖学教室となりました。これまでの伝統を基に、更に現代医学の発展に貢献できるよう、教室員一体となって教育と研究に勤しんでいます。

前世紀末から現在にかけて驚異的に進歩した技術革新は、分子細胞生物学、遺伝工学、脳科学、再生医学といった、現代生命科学を強力に推進し、これによって医学・医療は格段に進歩しました。発症メカニズムの解明から診断・治療・再生・予防に進むのが極めて速い領域もあります。しかし、こんな現代においても謎の多いのは『脳』です。人間と生命を理解する、つまり人間存在と生命現象の諸相の理解には“脳を探求すること”が不可欠です。脳はニューロンやグリアの構造的・機能的結合の集合体とも言えますが、その構造の本態を、遺伝工学や細胞生物学を応用した様々な細胞標識法を基に、デジタル化されたレーザー顕微鏡・電子顕微鏡及び超高圧電子顕微鏡(大阪大学:世界最高加速電圧)を駆使し、嗅覚系・情動系等を解析モデルとして脳神経回路の解明を目指しています。更に、全ての生命体がいかにして生まれ、育まれるかという、人類永遠のテーマである『生命の発生』について、生殖腺組織、特に生殖腺間質細胞を中心に、その分化メカニズムと遺伝子発現機構解明を目的に、発生工学的・ジェネティック/エピジェネティック解析を進めています。これらは国内外の研究機関や研究者との共同研究も同時に行われ、毎年、学会や論文により発表しています。また私が着任以降の13年間、指導した大学院生は12名(学内7名、学外3名、医療福祉大修士2名)、うち9名は既に学位を取得し、現在は3名が在学中です。

解剖学教室は確かに学部教育が多いのですが、統合化されたカリキュラムを、統合化されたひとつの解剖学教室の全員で実践できることは、“教育・研究の国際化”という、医学部の新たな時代を迎えるにあたり得難いチャンスと考えます。これまで学外に3名の教授・1名の准教授を輩出しました。『教育のジェネラリスト、研究のスペシャリスト』の育成を念頭に置き、医学生のみならず、医師、研究者、教育者の育成においても、本学の建学の理念である、「人間(ひと)をつくる」「からだをつくる」「医学をきわめる」といった人間教育を実践したいと思います。

川崎医科大学解剖学主任教授
樋田 一徳