運動器外傷・スポーツ整形外科学教室

運動器外傷・スポーツ整形外科学では

整形外科では運動を司る器官を構成する関節(骨・軟骨・半月)や組織(筋肉・靭帯・神経)の損傷から発生する疾病や外傷を治療対象としています。つまり、その対象は脊椎(脊柱)・脊髄、骨盤、上肢(肩、肘、手、手指)、下肢(股、膝、足、足指)などで、痛み、しびれ、そして運動機能障害になります。

疾病や疼痛のために就労、就学そしてスポーツ活動が妨げられている人の「早期の社会復帰」、「クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)の改善」ができるように安心で安全な医療を提供します。

特に、少子高齢化が急速に進む我が国において、健康寿命の延伸、労働生産人口の確保は喫緊の課題であり、これらを実現するための運動器疾患治療の重要性は以前にも増して高くなってきています。2019年度厚生労働省の国民生活基礎調査における介護が必要となった主な原因について、要支援者では「関節疾患」が 18 .9%で最多、「骨折・転倒」が14.2%で第3位、要介護者では「骨折・転倒」が12.0%で第3位となっており、運動器の障害、ことに「骨折・転倒」が健康寿命の延伸にとって大きな問題です。

要介護・要支援となる可能性の高い高齢者の脆弱性骨折に対しては、各科連携してできるだけ早期に手術治療を行ってリハビリテーションを開始し早期ADL回復を図ります。また手術のみならず脆弱性骨折の予防や骨粗鬆症治療の啓蒙活動にも取り組みます。

また外科系救急の多くを占める整形外傷の領域においては、初期治療、機能再建、リハビリテーションを一貫して提供して、防ぎえた外傷後遺障害(preventable trauma disability)を最小限に抑えます。骨盤・寛骨臼骨折など専門性の高い骨折や偽関節、骨髄炎など難治性骨折の症例を集約化し高度な専門的治療を展開し、コンピューター技術支援による低侵襲手術も積極的に導入していきます。

また近年では骨転移患者の病的骨折に対しても機を逃さず手術介入してADL、QOLの低下を防止することの重要性が認識されてきており、我々も積極的に取り組んでいます。

取り扱っている主な疾患

1. 整形外傷(骨折)

鎖骨・肩甲骨骨折、上腕骨骨折、前腕骨折、手関節骨折、手指骨折、骨盤・寛骨臼骨折、大腿骨頸部・転子部骨折、大腿骨骨折、膝蓋骨骨折、下腿骨折、足関節骨折、足部骨折

2. 難治性骨折

偽関節、変形癒合、骨折後骨髄炎、骨折後遺障害

3. スポーツ・関節疾患

膝靭帯断裂、膝半月板断裂、足関節靭帯断裂、変形性膝関節症、変形性股関節症、野球肩、肘離断性骨軟骨炎、肩腱板断裂、アキレス腱断裂、疲労骨折、肩関節脱臼、外反母趾など

4. 手外科マイクロサージャリー

日本手外科学会手外科専門医1名が在籍し、上肢の疾患および外傷(骨折や腱損傷、末梢神経障害、関節リウマチに伴う障害など)、切断指趾や血管・神経損傷を伴う外傷などに幅広く対応しています。マイクロサージャリーを駆使し、巧緻運動の再建を必要とする切断指再接着術の生着率は全国トップクラスです。また、他科とも連携し、四肢再建やリンパ浮腫、手の先天異常に対する治療も行っています。

専門医によるアカデミックな治療提案

外傷・手の外科

最近では労働災害や交通災害は以前より減少していますが、高齢化社会の到来とともに、お年寄りの転倒事故による外傷が増加しています。新しい骨折固定材料の開発・発展により、低侵襲での治療が可能となりました。その結果、より早期にリハビリを開始し、早期退院、早期社会復帰できるようになってきました。

一般外傷分野にもエビデンス(科学的証拠)に基づく治療を徹底し、初期対応から運動機能の再建まで総合的に考えています。また治療やリハビリが難しいことが多い「手の外傷」もリハビリテーションチームと連携し、積極的に対応しています。

スポーツ・関節外科

スポーツ障害の患者さんをすこしでも早くスポーツの現場に復帰させることを目的にした整形外科的診断・治療・リハビリまでを一貫しておこなっています。スポーツ傷害は疼痛がある部分だけの問題ではなく、身体全体のバランスの不均衡からも生じます。時には関節鏡を用いた低侵襲手術が必要となりますが、早期復帰に向けたスポーツリハビリテーションも重要で、リハビリスタッフと密に連携し治療にあたっております。また、ロボット支援による人工膝関節手術も導入し治療しております。

現在、県内外のプロフェッショナルなトップアスリートから健康スポーツに参加している方の診療や障害予防に携わっております。サッカー、野球、テニス、ゴルフなどの各スポーツ傷害、肩、肘、股、膝、足関節などにたいして関節鏡手術を行っております。また手術治療だけでなく、スポーツ傷害の予防について積極的に啓蒙しております。

研究内容

整形外科学でも主要領域の一つである整形外傷学、骨折治療を基幹研究分野として、実臨床に応用、還元できる研究を行っています。臨床研究では「機能再建を重視した外傷治療とその臨床的評価」「スポーツ外傷に対する低侵襲手術と早期完全復帰」を軸とした研究を展開しています。基礎研究のテーマは、1)骨折に対する新しい再生促進法の開発と研究、2)コンピューター支援ナビゲーション骨折手術の開発と研究、3)正常骨ならびに骨折に対する3次元形態解析、4)骨癒合不全の研究、5)骨欠損治療法の開発、6)分子生物学的なアプローチ、生体材料、コンピューターシミュレーションを用いた関節バイオメカニクス、などです。

運動器外傷・スポーツ整形外科学は、主に川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)にて診療・研究・教育を行っています。

川崎医科大学総合医療センター 整形外科

教授紹介

野田 知之

TOMOYUKI NODA

所属

川崎医科大学 運動器外傷・スポーツ整形外科学教授、川崎医科大学総合医療センター 整形外科部長

専門分野

外傷・骨折治療(特に下肢・骨盤・寛骨臼骨折など)/難治性骨折治療(骨欠損、偽関節、骨髄炎、変形癒合など)

認定医・専門医・指導医

医学博士、日本整形外科学会専門医・日本整形外科学会認定リウマチ医・日本整形外科学会認定スポーツ医・日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医、日本リハビリテーション学会専門医、インフェクションコントロールドクター(ICD)認定医、卒後臨床研修指導医、臨床修練指導医

代表著書・論文

1.Inoue M, Noda T, Uehara T, Tetsunaga T, Yamada K, Saito T, Shimamura Y, Yamakawa Y, Ozaki T

Osteosynthesis for geriatric acetabular fractures: An epidemiological and clinico-radiological study related to marginal or roof impaction. Acta Medica Okayama 75(2), 177-185. 2021.

2.野田知之

スタンダード骨折手術治療 下肢:インプラント周囲大腿骨骨折(TKA後のインプラント周囲骨折):①プレート固定. メジカルビュー社 180-187, 2021.

3.野田知之(分担編著、翻訳)

AO法骨折治療(日本語版) 第3版, 医学書院 2020.

4.Yamamoto N, Sukegawa S, Kitamura A, Goto R, Noda T, Nakano K, Takabatake K, Kawai H, Nagatsuka H, Kawasaki K, Furuki Y, Ozaki T

Deep Learning for Osteoporosis Classification Using Hip Radiographs and Patient Clinical Covariates. Biomolecules 10; 10(11): 1534, 2020.

5.Yamamoto N, Noda T, Sukegawa S, Inoue T, Kawasaki K, Ozaki T

Vacuum phenomenon in pelvic fractures. Injury. 51(7):1618-1621, 2020.

6.Kiyono M, Noda T, Nagano H, Maehara T, Yamakawa Y, Mochizuki Y, Uchino T, Yokoo S, Demiya K, Saiga K, Shimamura Y, Ozaki T

Clinical outcomes of treatment with locking compression plates for distal femoral fractures in a retrospective cohort. J Orthop Surg Res, 14(1): 384, 2019.

7.野田知之

ロッキングプレート 現在、そして未来. 日本整形外科学会雑誌, 89(7):514-522, 2015.

8.野田知之

OS NEXUS 4 股関節周囲の骨折・外傷の手術:寛骨臼骨折に対する前方アプローチ. メジカルビュー社 152-169, 2015.

9.Kinami Y, Noda T, Ozaki T

Efficacy of low-intensity pulsed ultrasound treatment for surgically managed fresh diaphyseal fractures of the lower extremity: multi-center retrospective cohort study. J Orthop Sci,18(3):410-8, 2013.

10.野田知之

骨折プレート治療マイスター:脛骨骨幹部骨折. メジカルビュー社266-285, 2012.