川崎医科大学病理学2

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症例1 解説

【病理診断】Noninvasive ductal carcinoma associated with mucocele-like tumor


【肉眼所見】拡張した乳管内に粘液が貯留していた。


【組織所見】拡張乳管内にAB-PAS両染性の粘液が貯留している。その一部は破綻し、間質内に粘液が漏出する、いわゆる粘液瘤様腫瘍の像を呈している。 さらに同様の病巣の一部または付随する乳管上皮に低乳頭状(またはRoman bridge様)の異型上皮増殖を認めており、 非浸潤性乳管癌(van Nuys Group 1)と判断した。3-5mm全割標本で明らかな浸潤癌を認めなかった。


【考察とまとめ】
 乳腺の粘液瘤様腫瘍(mucocele-like tumor; MLT)は、1986年にRosenらにより報告された疾患概念である。 Mucocele-like lesionとも呼ばれる。小唾液腺や虫垂などに発生する粘液瘤に類似した、間質への粘液漏出を伴う病変である。 病巣部には嚢胞状の乳管が集簇することが多く、当初は被覆上皮に異型が乏しく、立方状〜平坦な良性上皮に被覆されるものと考えられていた。 その後、同様の粘液漏出性病変で上皮に増殖性変化や異型病巣を有する例があることが知られるようになった。 この中にはMLT に連続して非浸潤癌や粘液癌を合併する例や、その周辺部実質内に異型乳管過形成や癌が付随している例も報告されている。 MLT部分そのものに異型上皮を有する場合に、ADHとするか癌とするか、についての十分なコンセンサスは得られていないが、 異型の程度で判断する以外には、3mm以上を癌としている報告者もある。  このように、最近ではMLTが全くの良性(いわゆる粘液瘤の状態)から悪性までの幅広い病変を含めるという立場も提唱されてきている。 本例のように癌を合併している症例に関しては、MLT相当の部も含め悪性と考えられる症例もあるが、 一方では良性のMLTを背景に癌を合併している症例も決して少なくはない。本例は形態的に、後者と考えたいが、 一見良性のMLT部の生物学的特性(最初からおとなしい癌であったのではないかという疑問)については、今後の研究の結果を待たねばならない。  なお、細胞診では、異型病変が採取できれば、純粋な良性MLTとある程度区別可能ではないかと考えている。 しかし、CNBも含め、MLTと診断しても癌の合併を否定できないので病巣摘出を基本にすべきであるとの意見があり、 細胞診も同じように考えるべきかもしれない(経過観察している症例もあり、その結果が待たれるところである)。  画像上は、粘液内に存在する石灰化が病巣検出の手がかりになることがある。超音波で拡張乳管を描出し、 穿刺細胞診で粘液が見られれば疾患の予測は十分可能と思われる。


【文献】@黒住昌史:Mucocele-like tumor. 病理と臨床19:515-517,2001.A広瀬浩一ほか。乳腺mucocele-like tumorの画像診断。 乳癌の臨床18:235-239,2003.B井内康輝。粘液瘤様腫瘍。良性乳腺疾患アトラス。永井書店、2005年、168-171. C森谷卓也ほか、粘液性背景を有する乳腺疾患の穿刺吸引細胞像.日臨細胞会誌46: 287-291, 2007.