川崎医科大学呼吸器外科学教室の「診療案内」です。

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当科で治療を行う疾患と特徴

呼吸器外科では、以下の疾患をはじめとして、肺や胸膜、横隔膜、縦隔、胸壁の疾患を対象として診療を行っています。

  • 原発性肺がん
  • 転移性肺腫瘍
  • 悪性胸膜中皮腫
  • 縦隔腫瘍(胸腺腫、神経原性腫瘍、重症筋無力症など)
  • 自然気胸
  • 膿胸

呼吸器外科で行う手術は、胸腔鏡という内視鏡を胸腔内(胸の中)に挿入してテレビモニターに映し出される画面を見ながら行う『胸腔鏡手術(VATS)』が一般的です。当科でも原発性肺がんをはじめとしてほぼ全ての疾患に対して胸腔鏡を用いて手術を行っています。2015年からは「3D内視鏡システム」を導入、さらに2019年からは「単孔式胸腔鏡手術」を行う体制を整備するなど、より安全で精度が高く、より低侵襲な胸腔鏡手術を提供することを心掛けています。

図1. 呼吸器外科における各疾患別手術件数の年次推移

診療内容と特徴

1. 原発性肺がん(図2~5,表1~2)

原発性肺がんの治療は、がんの進行度(病期,ステージとも言います)と患者さんの年齢や全身状態に応じて治療方針が決まります。手術の対象は主にステージI~III期の患者さんですが、当院では呼吸器内科・呼吸器外科・放射線科(画像診断、放射線治療)・看護部による合同カンファレンスで話し合って、それぞれの患者さんに最適な治療方法を決定しています。

原発性肺がんに対する手術は、胸腔鏡を用いて行います。そのうち、ステージI期(がんの大きさが3~4cm以下で、リンパ節への転移がないと判断される場合)に対しては『完全鏡視下手術(Complete VATS)』(3~4cmの傷が1つと、1~2cmの傷が2つ)を行っています。そのうち、小型の肺がん(がんの大きさが2~3cm以下)では『単孔式胸腔鏡手術(Single-Port VATS)』(3~4cmの傷が1つのみ)を行う場合もあります。一方、ステージII~III期(がんの大きさが3~4cm以上、またはリンパ節への転移が疑われる場合)の進行がんに対しては、胸腔鏡と小開胸(5~7cm程度の皮膚切開)を組み合わせた『ハイブリッド胸腔鏡手術(Hybrid VATS)』という方法を用いて手術を行う場合もあります。このようにそれぞれの患者さんに応じて、根治性と安全性を保ちつつ、より低侵襲な手術を提供しています。

2010年4月に呼吸器外科が新設されて以来、原発性肺がんに対する手術における治療関連死亡(在院死亡)は、術後30日以内が2例(0.20%;脳梗塞 1例,肺血栓塞栓症 1例)、術後31日以降が2例(0.20%;気管支断端瘻 1例、食事誤嚥 1例)です。(全国で肺がん手術を行っている主要施設では、術後30日以内の在院死亡が0.2%、術後の全在院死亡が0.5%と報告されています〔2018年 日本胸部外科学会の集計から〕。)

当院で手術を受けていただく患者さんの特徴として、高齢の患者さんが多いことがあります。手術を受けられる患者さんの20%近くが80歳以上で、90歳以上の患者さんも6名おられます(最高齢は91歳9ヵ月)。また、当院は特定機能病院であることから、心臓病や腎臓病、膠原病、糖尿病などの多数の合併疾患を有するリスクの高い患者さんに対する手術も数多く行っています。このように、個々の患者さんの状態・病状に応じた適切な治療を安全に提供することで、良好な治療成績が得られています。

当科は多施設共同臨床試験を行うグループ(西日本がん研究機構〔WJOG〕、瀬戸内肺癌研究会〔SLCG〕)に参加しており、国内主要施設と共同で行う臨床試験も積極的に行い、肺がん診療・治療の更なる向上に日々努めています。
表1. 2011~2022 年の原発性肺がんに対する手術
図2. 2010~2022 年の原発性肺癌がんに対する根治手術
図3. 2010~2020 年肺がん切除例の病期別生存曲線(術前治療を行った場合は除く)

広範囲のリンパ節に転移している、周囲の組織・臓器に肺がんが浸潤している、などの状態にある『局所進行肺がん』は、これまで手術による治療が困難とされてきました。しかし、最近の手術技術の向上や抗がん剤・放射線治療などの進歩により、手術前に抗がん剤治療や抗がん剤・放射線療法を行い(これを術前導入療法と言います)、がんやリンパ節転移が縮小した後に手術が行えるようになりました。

下に示します①~③は、当科で化学療法・放射線療法の後に手術を行った局所進行肺がんのCT・PET-CT検査の画像です。それぞれ左側が治療前の状態、右側が術前導入療法後の状態です。がん(原発巣)とリンパ節転移(上段;赤い部分、下段;黒い部分)が小さくなり、その後に手術により完全切除が行えました。
化学療法・放射線療法後に手術を行った局所進行肺がん① 右上葉肺がん(扁平上皮がん)、ステージ3⇒手術から6年間再発なく経過して、当科での診療は終了となりました
化学療法の後、手術を行った局所進行肺がん② 左上葉肺がん(扁平上皮がん)、ステージ3⇒手術から5年以上経過した現在も、再発なく外来通院されています
化学療法・放射線療法後に手術を行った局所進行性肺がん③ 右上葉肺がん(扁平上皮がん)、ステージ3⇒手術から4年半経過した現在も、再発なく外来通院されています

このような局所進行肺がんに対する術前導入療法後に行う手術は、通常よりも難易度が高く、術後合併症などのリスクも高い手術となりますが、こうした治療・手術においても、これまで重篤な合併症や手術関連死亡はなく、安全に治療を行い、良好な治療成績が得られています(図4、5)。
図4. 局所進行肺がんに対する術前治療後の手術成績(2005~2022年,44 例)
図5. 手術困難な進行肺がんに対する化学療法後のサルベージ手術の成績(2008~2022年,18例)

肺がんは日本人のがんによる死亡原因の第一位で、手術により完全切除が行われた場合でも、その後に再発することがあります。不幸にして手術後に再発した場合も、当科では「がん薬物療法専門医」を中心にして、抗がん剤治療分子標的薬治療のほか、2015年に肺がんに対して保険適応となった免疫チェックポイント阻害薬も適正に使用して治療を行っています。1年間に延べ70~80例の肺がん薬物治療を行っており(表2)、その8割は外来での通院治療です。術前の検査から手術、そして外来診療・治療・ケアまで、患者さんと相談して信頼関係を築きながら診療を行っていくことを心がけています。
表2. 当科で行っている肺がん薬物治療

2. 転移性肺腫瘍(図6)

大腸がん、頭頸部がん、腎がん、乳がん、子宮がん、肝臓がんなどの肺転移を対象として、主診療科と相談の上、手術を行っています。近年では、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬など薬物療法の進歩に伴い、転移性肺腫瘍に対する手術適応は拡大しています。

転移性肺腫瘍に対する手術は、胸腔鏡下肺部分切除術を原則としています。
図6. 2011~2022 年の転移性肺腫瘍に対する手術, 188 例

3. 悪性胸膜中皮腫

4. 縦隔腫瘍(図7)
(胸腺腫、神経原性腫瘍、重症筋無力症など)

縦隔とは左右の肺と胸椎、胸骨に囲まれた部分です。縦隔にできる腫瘍の多くは胸腺上皮性腫瘍(胸腺腫(きょうせんしゅ)や胸腺がん)です。胸腺腫に対する治療の第一選択は外科的切除で、従来から胸骨正中切開による胸腺腫と胸腺組織・周囲脂肪組織を一塊として切除する拡大胸腺全摘術が行われてきました。近年では、CTなど画像診断技術の進歩により、より小さな腫瘍が発見・診断されるようになり、胸腔鏡下拡大胸腺全摘や胸腺部分切除というより低侵襲な手術により同様の根治性が得られることが分かってきています。

当科では胸腔鏡手術から胸骨正中切開による拡大手術(隣接臓器に浸潤している場合には合併切除・再建など)まで、腫瘍の大きさや進行度、患者さんの状態に応じて適切な手術を提供しています。
図7. 2011~2022年の縦隔疾患に対する手術, 135 例

5. 自然気胸

肺の表面にできたBulla(ブラ)の破裂により肺が虚脱して、胸痛や呼吸困難などを生じる疾患です。患者さんの多くは、若年(20~30歳代)のやせた男性と高齢の重喫煙者です。症状や程度に応じて安静や胸腔ドレナージ、胸腔鏡手術、気管支内視鏡を用いた治療などから適切な治療法を行います。

手術適応となるのは、再発を繰り返す場合、保存的治療(胸腔ドレナージ)によっても病状が改善しない場合両側性の場合血胸(胸腔内出血)を伴う場合、などです。

6. 膿胸

胸腔内が感染して膿(うみ)が溜まった状態で、高齢者や糖尿病、ステロイド治療を行っている場合など免疫力が低下した患者さんに多くみられます。膿胸に対する初期治療は胸腔ドレナージと抗菌薬治療ですが、1~2週間程度で改善・治癒しない場合、膿胸が慢性化して難治性となります。このような場合には、早期に手術で胸腔内に溜まった“膿(うみ)”を取り除くことが有効な治療となります。

社会の高齢化に伴い、手術が必要となる膿胸の患者さんが近年増加しています。当院では呼吸器内科と連携して治療を行っており、保存的治療で改善が乏しい場合には早期に手術(胸腔鏡下胸腔内掻爬(そうは)術)を行い、低侵襲でかつ早期の治癒を目指しています。

7. その他

抗菌薬治療が無効な難治性の慢性肺感染症(肺非結核性抗酸菌症、肺真菌症、肺膿瘍など)も外科手術の対象となります。また頻度は少ないですが、石綿(アスベスト)暴露が原因となる悪性胸膜中皮腫、胸壁悪性腫瘍(肋骨・肋軟骨原発の肉腫)、気管狭窄に対する気管支ステントなどの気管支内治療、胸部外傷などに対しても専門的な治療を行っています。