川崎医科大学・生理学2教室 

脊髄損傷に対する運動療法のメカニズム研究 −筋の収縮弛緩による脊髄再生の可能性ー


 脊髄損傷(脊損)患者に対する運動リハビリテーションの効果やそのメカニズムは未だ明らかではない。骨格筋は運動器であると同時にその活動中に神経栄養因子を含む多くの生理活性因子を分泌する器官である。本研究は骨格筋に焦点を当て、その収縮弛緩が脊髄の再生に直接作用するという仮説を立て、リハビリテーションによる機能回復の分子メカニズムを解明することを目的とする。
 我々は、脊損モデルラットの下肢筋を電気刺激によって繰り返し収縮弛緩させると運動機能が改善することをすでに確認している。本研究では、胸髄を破壊した脊髄損傷モデルラットに対して下腿骨格筋を電気刺激することによる組織障害の低減、軸索再生の促進、運動機能の回復の有無について検討した。
 下腿骨格筋への電気刺激によって運動機能が有意に回復し、その際に脊髄及び骨格筋のBDNF産生が有意に増加しており、BDNFが細胞保護効果と軸索再生に関与した可能性について報告した(Hayashi N et al, Spine J, 2019)。さらに、筋収縮の必要性とその情報の伝達経路について検討した結果、脊損後の電気刺激による運動機能改善のメカニズムとして、下腿骨格筋の収縮弛緩が脊髄求心路を介した経路で脊髄でのBDNF産生を促進して運動機能を改善したことを示した。

脊髄損傷後の下腿骨格筋電気刺激による運動機能改善と脊髄求心路の関与(ポスター)