指導医からのコメント

一枚の画像の先にある医療を支える。

檜垣 篤

川崎医科大学 放射線診断学教室

医局長

川崎医科大学 放射線診断科 医局長 檜垣 篤

放射線科を志したきっかけ

肺炎の精査のために撮影された、一度の胸部CT。そこから読み取られていたのは、肺炎の有無だけではありませんでした。後期研修医だった私は、他院から届いた一通の紹介状を読んで驚きました。

初期研修を終えた当時、私は総合内科医を目指していました。患者さんを幅広く診られる医師になるために何を学ぶべきかを考え、後期研修1年目は救急科に所属しながら、麻酔科、循環器内科、放射線科をローテートしていました。

ある日、他院から重症の肺炎として患者さんが搬送されてきました。届いた紹介状には、まず肺炎そのものについて、こう記されていました。「陰影の分布と性状は通常の細菌性肺炎としては非典型的で、間質性肺炎や薬剤性肺炎の可能性を考えます。貴院での精査加療をお願いいたします」。

さらに、撮影の目的とは異なる部位についても、「左乳房に乳がんを疑う腫瘤と腋窩リンパ節腫大を認めるため、肺炎の治療後に乳腺の精査をご検討ください」「右副腎に腺腫を疑う結節を認めます。治療抵抗性高血圧もあるため、ホルモン値を含む内分泌学的精査をご検討ください」と書かれていました。

肺炎があること自体は、誰にでも分かります。しかし、その陰影から通常の細菌性肺炎ではない可能性を読み取り、患者さんをどこへつなぐべきかまで判断する。そのうえで、主目的である肺野の外にも目を配り、患者さんのその後を左右しかねない二つの病気を偶発的所見として拾い上げ、次の診療につないでいる。後になって、この紹介状を書いたのが放射線科の医師だったと知り、一度の検査からこれほど多くのことが分かるのかと感動したことを覚えています。

救急の現場でも、画像診断によって診断や治療方針が大きく変わる場面を何度も経験しました。放射線科をローテートしてみると、先輩たちは画像の異常を見つけるだけでなく、そこから病態を想像し、患者さんの症状や検査データと照らし合わせて全身の状態を捉えていました。放射線科は、画像を通して患者さん全体を診る、もう一つの総合診療なのだと感じ、入局を考えるようになりました。

診断と治療で、患者さんの診療を支える

放射線診断科は、院内のほぼすべての診療科と関わります。救急診療、がんの診断、手術前の評価、治療効果の判定など、画像がその後の方針を決める場面は数多くあります。依頼された疾患について「あるか、ないか」を答えるだけでなく、その病態を一歩踏み込んで読み解くこと、撮影の目的とは異なる部位に潜む重要な病変に気づくこと、緊急性の高い所見をすぐに伝えることも、私たちの役割です。他科の医師から「見つけてもらって助かりました」「すぐに連絡をもらえてよかったです」と感謝されることも多く、自分の読影が患者さんのその後の診療を動かしていることを実感できます。医療の専門分化が進み、画像から得られる情報が増えるほど、全身を見渡して画像と臨床をつなぐ放射線科医が必要とされています。

もちろん、放射線科の仕事は画像診断だけではありません。IVR(画像下治療)では、X線透視、CT、超音波で体内を確認しながら、カテーテルや針を用いて患者さんを治療します。外傷による出血や内臓動脈瘤の破裂など、一刻を争う状況で止血し、患者さんの命を救うこともあります。一方で、膿瘍のドレナージ(排膿)や組織生検、がんや骨折、関節痛などによる痛みを和らげる治療も行います。小さな傷で大きな治療効果を得られること、自ら手を動かして患者さんを助けられることは、IVRの大きな魅力です。治療を終えた患者さんやご家族から、直接感謝の言葉をいただくことも少なくありません。

放射線科の未来をつくる研究とAI

研究では、体の形だけでなく、血流、組織の性質、臓器の動きや機能など、人体の中で起きていることを画像にします。「まだ見えていない病態を、どうすれば見えるようにできるのか」「画像の中から、診断や治療に役立つ新しい情報を取り出せないか」と考えることは、画像医学ならではのサイエンスです。

当科でも、MRIによる血流や組織特性の可視化、新しい撮像法や画像解析、AIを用いた画像診断など、日常診療に結びつく研究を行っています。放射線科では、研究で得られた成果を実際の検査方法や読影に取り入れ、比較的早く患者さんの診療へ返すことができます。診療で生まれた疑問が研究になり、その答えが再び日常診療に戻ってくる。この距離の近さも、放射線科で研究する面白さです。

AIの進歩によって、放射線科の仕事はこれから大きく変わっていきます。病変の検出や計測、画像の整理、レポート作成などをAIが支援する場面は、さらに増えるでしょう。しかし、AIが示した結果を患者さんの症状、病歴、検査データと結びつけ、その意味や緊急性を判断し、次の診療へつなげるのは放射線科医です。AIは放射線科医に代わるものではなく、より多くの情報を、より正確に患者さんへ届けるためのパートナーです。新しい技術に早くから触れ、その性能と限界を理解しながら診療に生かせることも、この分野の面白さだと思います。

多様な成長を支える医局

当科には、さまざまなきっかけや目標を持って入局した医師がいます。画像診断を極めたい人、IVRを中心に取り組みたい人、研究に興味を持った人、遠隔画像診断を含む柔軟な働き方に魅力を感じた人がいます。将来の内科診療や開業に生かすため、数年間所属して全身の画像診断を学んだ人もいます。そして、見学後の食事会が楽しく、「この人たちと働きたい」と感じたことが最後のひと押しになった人もいます。

放射線科への入り口も、その後の進み方も一つではありません。将来どのような医師になりたいか、どのような働き方をしたいかは、人によって違っていて当然です。当科では、それぞれの興味や将来像を大切にしています。若手医師が作成した読影レポートは上級医が必ず確認し、分からないことを気軽に相談できる環境も整えています。

興味を深め、自分の世界を広げる機会として、学会参加も積極的に勧めています。海外の主要な学会が年に2〜3回、国内の主要な学会が年に4〜5回程度開催され、そのほかにも地方会や専門領域の研究会など、多くの発表と学びの機会があります。若手医師も自分の経験した症例や研究成果を発表し、各分野の新しい知識や技術に触れています。他施設の医師との交流や、学会後に医局員で食卓を囲む時間も、よい刺激になっています。

職場の雰囲気がよいことも、当科の魅力です。BBQや食事会などを定期的に開催していますが、参加はもちろん自由です。「行ける人が、行けるときに」という気軽な雰囲気で、多くの医局員が自然に集まっています。こうしたイベントには他科の医師や研修医も多く参加し、年代や専門分野にかかわらず話しやすく、仕事で困ったときにも相談しやすい関係ができています。

あなたのきっかけから始まる放射線科

私にとって、放射線科への入り口は一通の紹介状でした。皆さんにとっては、一枚の画像かもしれません。IVRの現場、研究の話、AIへの興味、あるいは医局の雰囲気かもしれません。きっかけは何でも構いません。少しでも興味を持った方は、ぜひ一度、当科を見に来てください。

皆さんと一緒に学び、働ける日を楽しみにしています。