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研究内容紹介

「あの疾患も、発汗障害によって発症していたのか?」と皮膚科医に伝えたい。

発汗システムは体温調節の他に皮膚の水分量保持と自然免疫担当器官である可能性があります。しかし、後者に関する研究はまだ始まったばかりで、特に皮膚疾患発症における役割は殆ど解明されていません。最大の理由は実験動物に使用されるマウスの有毛部に汗腺がないため、汗の関与を評価できないからです。生活環境の乾燥化により、発汗異常が生じ症例数が急増しているのがアトピー性皮膚炎(AD)です。我々は、AD以外の従来原因不明とされてきた炎症性皮膚疾患においても発汗異常が関与する可能性を検討しています。これは塩原らが、皮疹部付近の微小環境の発汗機能を定量的、経時的に調べる事を可能にした革新的な発汗機能定量測定法(impression mold technique:IMT)を樹立したからに他ならず、従来法では全く不可能でした。我々はIMTを導入し杏林大と共同で症例を蓄積し、既にアミロイド苔癬(Shimoda,Aoyama BJD2016)、帯状疱疹(Ushigome JAAD2016)、AD(in press)、 結節性痒疹(投稿中)において、発汗障害がこの病態形成に極めて大きな役割を果たしていることを明らかし、疾患に対する従来治療の問題点も明らかにしています。また、汗腺特異的抗菌ペプチドdermcidin(DCD)抗体を用いた免疫組織染色法を改良し、汗の漏れを従来法よりもさらに鋭敏に可視化することに成功しました。皮膚中で生じる汗の漏れから始まった炎症は、皮表への発汗低下による皮膚の乾燥だけでなく、皮膚紋理の構築を乱し、非病変部に代償性発汗過多をもたらします。それがまた汗の漏れを誘導するというように、局所で生じた汗の漏れがドミノ式に炎症を拡大する要因になります。このような汗の漏れを考慮せず、画一的に発汗抑制作用のあるステロイド外用薬を使用すれば、発汗障害はますます進行し、炎症性皮膚疾患の病変が形成されていく可能性があると考え、患者治療に直結する臨床研究を進めています。

(林田 優季、片山 智恵子、青山 裕美)

「ヘルペスウイルス感染に伴う皮膚病変形成メカニズムの解明」

ヒトに感染するヘルペスウイルスには、単純ヘルペスウイルス(HSV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)など9種類存在します。皮膚に病変を形成するヘルペスウイルス感染症として、HSVによる口唇ヘルペス、性器ヘルペス、カポジ水痘様発疹症、VZVによる水痘、帯状疱疹などが有名であり、日常頻繁に遭遇する疾患です。これらの疾患の共通点として、表皮ケラチノサイトに感染して、臨床的に小水疱を形成し、病理組織学的に表皮内に多核巨細胞や棘融解細胞を認めるという特徴があります。しかし、このような病理組織学的変化をきたすメカニズムは、いまだに解明されていません。

われわれはHSV/VZVを培養ケラチノサイトに感染させて、細胞形態の変化を様々な観点から解析しています。その結果、多核巨細胞や棘融解細胞は細胞外カルシウム濃度に依存し、ウイルス感染細胞の形態もカルシウム濃度で大きく異なることが証明されました。また、ウイルス感染細胞が隣接している非感染細胞へ感染拡大するcell to cell感染の様子をin vitroで経時的に確認することができました。これらの結果は、すべてウイルスの細胞内侵入からウイルスDNA複製、新規ウイルスの細胞外放出に至る一連のウイルス複製経路と関連しており、ウイルスの効果的な複製のために、巧みに宿主細胞を利用していることが証明されました。現在は、これらのウイルス感染細胞に対するヒトの免疫能の関与について解析中であり、ウイルス側、宿主側因子が複雑に関与して臨床的に小水疱を形成していると考えられる詳細なメカニズムがいよいよ解明されようとしています。

(山本 佳子、山本 剛伸)

実は身近なところにある「免疫再構築症候群」

自己免疫性水疱症に対する有効な免疫抑制療法導入後の合併症の多くがウイルスの再活性化などを契機とする免疫再構築症候群(IRIS)として発症し、時に致死的になることもあります。超高齢化社会を迎え、ハイリスク患者症例は増加傾向にあり、合併症の予防戦略が社会的に求められています。私達は、これまでに他施設と共同で典型的なIRIS型経過をとる薬剤過敏症症候群(DiHS)で重症度スコアとサイトカインによる診断アルゴリズムを作成してきました。 これにより治療や減量のタイミングを適正化することができると期待されます。

当教室では、これまでの経験を生かして、自己免疫性水疱症を対象に、経過中の免疫担当細胞の動態に関与するサイトカインプロフィールを網羅的に解析すると共に多角的に症例を評価し、治療早期に用いる重症度予知スコアを策定し、IRIS的合併症を予測するバイオマーカーを見いだすために研究を行っています。 本研究の成果により、自己免疫性水疱症の免疫抑制療法に際し、免疫動態を推定する新たな指標を確立し、合併症を予測し、治療を適正化することが可能になると期待されます。

(林 宏明、杉山 聖子、林田 優季、青山 裕美)

DPP4阻害薬関連類天疱瘡の実態調査

自己免疫性水疱症は、表皮接着構造に対する自己抗体によって発症する皮膚や粘膜に水疱を生じる疾患で、水疱性類天疱瘡(BP)と天疱瘡が主な病型です。

最近糖尿病治療薬のジペプチジルペプチダーゼ‐4(DPP-4)阻害薬(グリプチン製剤)内服中に発症したBPの報告が相次いでいます。それに伴って、これが非常に稀な合併症なのか、DPP4阻害剤を中止するだけで治癒するのか、ステロイド治療を行った方がよいのか、という様々な疑問が挙げられています。そこで、DPP4阻害剤関連BPの発症頻度、重症度、予後に関する全国的な規模で疫学調査が必要と考えました。

現在、DPP-4阻害薬関連BPの症例を集積し、病態と治療経過を解析し、DPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡への対応指針を難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班で検討するために、全国調査を開始しました。対象は、日本皮膚科学会専門医主研修施設および専門医研修施設において、2016年1月1日から同年12月31日までの間にBPと診断された患者。本調査ではDPP4阻害剤内服歴のあるBP患者とないBP患者の両者で、研究期間は2016年11月14日から2020年3月31日までです。

疫学調査を行うことで、DPP-4阻害薬関連BPの実態が明らかになるのではないかと考えて期待しています。調査依頼を全国の施設にお送りして、お返事をいただけるか、ドキドキしながら待っています。お手数をおかけしますが、どうぞご協力よろしくおねがいします。

(杉山 聖子 青山 裕美)